「ところがこれは、《自然》の自惚れの鼻をへし折ってやるために、
科学の力で作り上げた、精妙な物質の合成物なのです」
『未来のイヴ』ヴィリエ・ド・リラダン 著、齋藤磯雄 譯
息を飲むほど美しい恋人に宿っていたのは、
卑劣で醜い魂。
苦悩し、自殺すら考えるイギリスの貴族エワルドに
稀代の発明家エディソンが見せたのは
彼女そっくりの人造人間だった
というはなし。
卒論のネタのひとつです
作者リラダンが『未来のイヴ』で語るのは
人間と機械の間で苦しむ青年の姿ではありません。
老いることのない人工皮膚の作りかた、
機械であることを感じさせない優雅な物腰のタネ、
いかにして機械が人間と自然な会話を行うのか
彼がとうとうと語るのは、
エディソンの作り出した“幻”の精巧さと、
緻密に練られたその仕組み
ただそれだけです。
なのに背中に走るこの戦慄は、
いったいどこから来るものなのか
そしてどこまでが科学で、
どこからがフィクションなのか
リラダンの紡ぐ情景の圧倒的な美しさが、
齋藤磯雄の荘厳な翻訳によって
より純度を増して迫ってきます
寒い夜、コタツにもぐって
こんな重厚な
歴史的名著に触れるのも、乙じゃね?